アフォーダンスとセレンディピティ

 心理学分野の専門用語となりますが、J・ギブソンというアメリカの心理学者の発案というか造語がaffordance(アフォーダンス)で、動詞 afford(余裕がある、提供する、与える)の名詞形です。J・ギブソンは知覚研究が専門で、周囲の環境を探索することによって獲得する価値や、獲得することそのものを表わす概念です。

 J・ギブソンのアフォーダンスの例として、「このドアには ”開ける” というアフォーダンスがある」あるいは「このドアは ”開ける” という行為をアフォードしている」というニュアンスで、それから拡張・進化・発達して、他えば「人をある行為に誘導するためのヒントを示す事」、そして「わかりやすいドアノブを取り付けることで、ドアが引いて開けるという動作をより強くアフォードする」という一歩踏み込んだ使われ方もされるようになって、それが教育心理学の分野で、「教師がわかりやすい授業・説明をすることで、生徒が理解・認知を、より強くアフォードする」というニュアンスで捉えられるようになって、私のセンス研究でも参考にしました。

 似て非なるものという意見もありますが、ヴィゴツキーの構築した発達の最近接領域(Zone of proximal development・・・ZPD)は、教師の教えに関して、子どもの「今現在の認知・理解水準」を基準にするのではなくて、「今後の伸びしろ・予測的認知・理解水準」を視野に入れるという考え方です。私の主観かもしれませんが、日本流の「習うより慣れろ」、「師匠。先達に倣え」「形から型を見倣い、自分なりの型を形として表現」という「お稽古」にアナロジーを感じます。

 それに対してセレンディピティ( serendipity)は、たとえば学習で、習得を目指したり追求している時に、素敵な偶然、あるいは予想外のものから、習得や追求している目的とは異なる「価値」に偶然気付いたり習得することです。よくセレンディピティの例としてノーベル物理学賞を受賞した江崎玲於奈のトンネル効果の発見があります。江崎は東京通信工業(現在のソニー)で半導体ダイオードの改良研究をする中で、電圧を超えると電流が逆に減る(負性抵抗)という異常なカーブが現れたのですが、このような場合が起これば測定ミスや試料の不良として見捨てるのですが、、江崎は何度も試料を作り直し、測定を繰り返し、同じ現象が再現されることを確認して、結果として量子力学で予言されていたトンネル効果が半導体で実際に起きていることを突き止め、それがノーベル賞につながる発見となったわけです。

 もともとは「セレンディップの3人の王子」 (The Three Princes of Serendip)という童話で、王子たちは旅の途中、いつも意外な出来事と遭遇し、彼らの聡明さによって、彼らがもともと探していなかった何かを発見するのを、ウォルポールが、この小説からセレンディピティという造語と概念をつくったのが由来です。

 副産物やゴミのような、本来は処分するものに価値を見出し困っていた処分品を商品とするのもセレンディピティ的ですし、教育においては、一般に欠点と言われる個々の生徒の個性・特性・癖・慣習を、その生徒のメリットとすることもセレンディピティ的ですし、グループでのブレインストーミングがセレンディピティにつながることがあります。

 アフォーダンスとセレンディピティ、しばらく教育心理の研究から離れていましたので、ちょっと新鮮な気持ちでパラパラと2冊の本をめくりました。

 

itsumi
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