躑躅

 ゆく方も躑躅なり。来し方かたも躑躅なり。山土のいろもあかく見えたる。あまりうつくしさに恐しくなりて、家路に帰らむと思ふ時、わがゐたる一株の躑躅のなかより、羽音たかく、虫のつと立ちて頬を掠めしが、かなたに飛びて、およそ五、六尺隔てたる処に礫のありたるそのわきにとどまりぬ。
   竜潭譚・躑躅か丘より、泉鏡花

 躑躅の花が咲き誇る光景を目にすると、泉鏡花の竜潭譚の冒頭のシーンを思い出します。美文で幻想的な鏡花の世界に惹かれたのは、平成のヒトケタの頃でした。鏡花全集を買いたいと思いながら、今は著作権が消滅しているので、青空文庫で鏡花の作品がほぼ揃っており、鏡花の古い文庫本が何冊かありますが、開くこともなく本暖に並んだままです。

 彼方此方で躑躅が咲き誇っているのを見掛けるようになりましたが、竜潭譚に描かれているような「ゆく方も躑躅なり。来し方かたも躑躅なり。山土のいろもあかく見えたる。あまりうつくしさに恐しくなりて・・・」という光景は残念ながら身近に体験は出来ません。

 朝の散歩の折に見掛けた見事な生垣、最近は珍しくなっています。

 粋な黒塀も、少なくなりました。以前は黒光りしていた黒渋塗りでしたが、だいぶ薄れています。残念ながら見越しの松はありません。

 彩豊かな花を魅せてくれると、ブロック塀でも目を楽しませてくれます。

itsumi
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